洗脳の解除法

1.
二つの方法


洗脳を解除するためには、大きく分けて二つの方法があります。
本人と対決して議論で説得する「脱洗脳」という方法と、じっくり本人の話を聞いて自らが別の道を選択するのをサポートする「救出カウンセリング」という方法の二つです。
北朝鮮に拉致されていた蓮池薫さんを、お兄さんが一晩かけて説得し、洗脳を解いて日本にとどまらせたのは対決方式でした。これが「脱洗脳」です。うまくいけば即効性がありますが、反発されるケースもあり、そうなると相手は意地になるので難しい面があります。
これに対して傾聴を中心に据える「救出カウンセリング」は、信頼性をはぐくみながら相手に自分の道を選択させるので、時間はかかりますが手堅い方法です。そのために現在はこちらの手法が主流となっています。
私たちはクライアントさんの「魂」と「潜在意識」との対話型セッションになります。


2.
四つのプロセス


カウンセリングのポイントは四つあります。

1.
受容と共感的理解により本人と信頼関係をつくる。

2.
クライアントの中にある相矛盾する気持ち(両価的な気持ち)を明確化する。

3.
家族とのつながりを回復させる。

4.
自己価値を持てる(自己信頼の回復)ようにサポートする。



3.
信頼関係を築く


まず前提として抑えたいことは、クライアントさんが信じ拠りどころにしているものを最初から否定する態度で臨むと、クライアントさんはまず心を開いてくれないということです。それどころか自分の信じるものを守ろうとして防衛的になります。結果、もっと固くなり、冷静に事態を振り返ることができにくくなります。
そこで、私たちは、共感的でありつつ中立的な姿勢を保ちます。それによって「安心してありのままを話してもらう」ようにします。
裁かないで、あるがままの本人を、まず受け入れます。本人の信仰を裁かず、そうせざるを得ない事情や心境を、クライアントさんの立場に立って理解しようとします。これによって信頼関係を作っていきます。信頼関係の中で話していくうちに、クライアントさんは自分自身に何が起きたのかを、客観的に見つめることができるようになります。


4.
矛盾する二つの気持ちを語ります


最初はその宗教などのよい面を話すのみであっても、やがてネガティブな面についても語り始めます。自分が感じてきた違和感や嫌いな面、矛盾を感じたことなども話すようになるのです。こうして自分の中にある両方の気持ちを自覚するようになります。信仰などを続けるか、やめるかの両方で揺れる気持ちを話し手は味わいます。
ここで特に重要なことがあります。それは相反する気持ちが同居した「両価的」な心の状態を「明確な言葉」で表現して、それを受け止めていくということです。話し手が言った相矛盾する気持ちを、その両者をカウンセラーが「こういう気持ちがあるのですね」と確認していくことで、クライアントは自分で「両価的」な心の状態を自覚してゆくことになります。
ある宗教等を心の支えとして依存してきた人は、そこから離れていこうとするときは、必ず正反対の気持ちの間で揺れ動くことになります。依存を脱して自立を回復したい気持ちと、依存しないでは生きていけないという不安や自信のなさを覚えるのです。
この両方の気持ちを、十分に口に出して話してもらうことが重要です。一方に気持ちだけを口にして、宗教などをやめる決意を語ったとしても、抑圧されたもう一方に気持ちが膨らんでくると、簡単に決意はひっくり返ります。特に対決型の手法ではこのことがおきやすいため、それがしばしば失敗の原因になります。やはり、クライアントさんの中の「両価的」な気持ちと十分に向き合って、そのうえで自らがそれを克服するプロセスを踏まないと、後戻りしやすいということなのです。
今まで信じてきた宗教等から離れようかというとき、誰しも揺れ動く気持ちを味わうのは当たり前のことです。ですからこの段階では、「両方の気持ちがあるのを当然のこととして受け止めて、それぞれの気持ちが、いまはどの程度あるのかを聞き、それがそれぞれどういう気持ちであるのかを話してもらう」ことが大切です。
これを何度も繰り返していくうちに、それぞれの気持ちの「根底にあるもの」が、次第に見えてきます。「何が自分をそこにひきつけ、そこに縛り付けているのか。何に自分が支配されているのか。」それがだんだん明らかになってくるのです。
自分を縛り付けているものが心の中に秘められているうちは、なかなかそこから逃れることができません。しかし不思議なことに、一度口に出して自分を縛っているものの正体が見えてくると、支配する力は衰え始めます。
人はその思いの正体が自覚されていないと、その力には支配されやすいのです。ところが、正体を知ってしまうと、その力は次第に統御できるようになっていきます。


5.
根底にある欲求とは


宗教等に依存する気持ちの根底にあるものは、多くの人に共通しています。多くの場合は「愛情やつながりを求める気持ち」と、「自分の存在や価値を認めてもらいたいという思い」が関わっています。「つながりへの欲求」と「自分の価値への欲求」です。これは人が誰しもが持っているものではないでしょうか。

6.
家族とのつながりを回復する


「つながりへの欲求」では、家族との心のつながりを回復することが、特に重要になります。家族との心のつながりが回復されないと、また別のところに依存せざるを得なくなります。
家族とのつながり、そして信頼関係を回復させるためには、まず家族が本人の言い分や気持ちを受け止めることです。これが出発点になります。本人が十分に自分の気持ちを語り、それを家族に十分に受容され理解されると、今度は家族の気持ちを聞こうという姿勢が生まれてきます。
その時に家族が感じていることや心配していることを、冷静に伝えていきます。なによりも家族の変わらない愛情を伝え、どんな状況になっても、本人が一番大切であることを伝えます。
こうした機会を一定の間隔をおきながら繰り返し持つことで、家族の信頼関係は急速に戻り、それと同時に、今まで依存していた宗教への思いも色あせていくようになります。


7.
自分の価値に自信を持たせる


またもう一つ必要になるのは、依存している世界以外で、自分の価値を確認できるようにすることです。知的能力や職業的技能を磨いて、社会で活躍できる場を広げることが必要になります。経済的に自立することは、非常に重要な要素となります。自分の力で誰かの役に立っていく、社会に役に立っている自分を確認していく。それが自分の価値への確信をもたらしてくれます。
そこまで行くには結構困難なことがありますが、それだけに乗り越えたときには確かな自信がうまれ、自分自身を「まんざらでもない」と思えるようになるのです。
自分の価値の確認という点では、もう一つ重要な視点があります。それは宗教によりどころを求める人は、えてして一般の人にはない鋭敏な心の感覚を持っていることが多いということです。それは霊的な感覚です。
宗教性が抑圧されてきた現代の日本社会では、鋭敏な心の感覚(霊的な感覚)を持つ人は、疎外感を強く持って育ちます。そういう他の人とは異なる感覚を持つことは、何かおかしいことのようにみなされて、よくないことのようにみなされがちだからです。彼らは「自分の感覚が尊重されない」「自分が受容されない」、そして「理解されない」という苦しみを味わって生きています。ですから彼らの疑問に答え、理論的な説明を与えてくれる心理学と、受容し共感的に理解してくれるカウンセラーが、必要となると思います。





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