精神医学的にトラウマとは

米国精神医学会では、次の二つの定義を満たすものがトラウマとされています。
一つは出来事の質です。あることを体験したか、目撃したか、目撃ではないけれど心理的に直面したかのいずれかに当てはまっていることです。どういう出来事かというと、死の危険を感じるようなこと、重症を負うようなこと、身体の保全に迫る危険となっています。それは一度でも繰り返しでもいいわけです。
二つには、体験する側の主観的な感情です。その人の反応は強い恐怖、無力感または戦慄に関するものです。恐れ、絶望感、恐怖といった感情が体験になっていることが必要です。


トラウマとなる出来事

トラウマをもたらすような出来事の特徴は、

1.
出来事が予測不能であること。予測できればそなえること ができます。しかしトラウマとなるような出来事は、不意にやってくるし、そのあとどうなっていくかという見通しも立ちません。

2.
コントロールできないこと。自分の力では事態を操ることができません。圧倒的な出来事のなかで自分で対応できる余地はほとんどないことが普通です。

3.
起こっている出来事が非常に残虐なものであったり、グロテスクなものであったりすること。図らずも死体や死体の一部を目にしてしまうなどです。

4.
自分が愛している人や大事にしている何かを失うこと、すなわち対象の喪失が起こることです。

5.
暴力的な出来事。これは特にトラウマをもたらしやすいことがあげられます。

6.
その出来事によって起こってくる結果に対して、実際に自分に責任があると思われたり、あるいは、主観的に責任があるとどうしても感じられたりすること。


では、具体的に出来事の種類を考えてみましょう。

1.
自然災害
(地震や、台風や、洪水、竜巻など)

2.
人為災害
(航空機事故、鉄道事故、交通事故など)

このような体験は自分では予測不能であるし、事態を変えるといっても自分ではどうすることもできません。実際に生命の危険があり、残酷な場面を目撃することがあります。大事な人たちがたくさん亡くなることもあるし、自分が助けられなかった、あるいは、自分だけが助かってしまった、ということに強く責任を感じる事態もよく起こります。

3.
生命に関わる大ケガ

大災害でなくても、家庭のなかで起こった事故、たとえば、沸き立ったヤカンをひっくり返して生命に関わる大ヤケドをした、ということもトラウマの原因になるでしょう。

4.
毒物を用いた犯罪や毒物による事故の被害

5.
暴力的な犯罪被害

6.
誘拐、捕虜、監禁の体験

襲われたり、ナイフで脅されたり、からだを傷つけられたり、といった暴力犯罪の被害や、強姦や強姦未遂などの性暴力の被害、誘拐、捕虜・監禁の体験もトラウマになりやすくなります。

7.
児童虐待の被害

虐待は、現在、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト(子どもの世話を放棄したり、子どもの感情を無視したりすること)、心理的虐待の四種類に分けられていますが、そのすべてがトラウマの体験となるでしょう。

8.
戦闘体験

9.
親しい人の突然の予期せぬ暴力的な死

犯罪事件で家族を殺されること、または、交通事故やさまざまな事故で突然亡くすことなどもトラウマ体験となるでしょう。

トラウマの原因となる出来事は身のまわりにかなりたくさんあるように見えます。でも、普段の生活のなかで起こるストレスは、現在は医学的にはトラウマとは呼ばれていません。たとえば、離婚したり、病気で家族を失ったり、失業したり、といった大きなストレスを多くの人が体験しますが、これらはトラウマとなるような出来事の範囲には含まれていないようです。


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